Webライターとして生きる

五条ダンのブログ。「楽しく書く」ための実践的方法論を研究する。

あめゆじゆとてちてけんじや

「六甲のおいしい水を買うてきてほしいんやけど」と頼まれたのは、妹が緊急入院をして三日目の朝だった。病院食が喉を通らない絶食の状態で、点滴注射が痛々しい。小さく笑みをつくって、妹は六甲のおいしい水が飲みたいと言った。

 僕は頷いて病室の外へ出る。よくわからない焦燥感に追われるように、病院のフロアを歩き回り、自動販売機を探す。六甲のおいしい水。僕の住まう地域では昔から馴染みの深いブランドで、我が家でその言葉が使われるときは一般的なミネラルウォーターのことを指す。

 さておき自動販売機だ。経口補水液やらスポーツドリンクやらお茶やらはあるのに、ふつうの水がどうしてか売っていない。強いていえば「いろはす」という透明なボトルが、どうやら天然水らしい。しかし以前にミネラルウォーターだと思って「いろはす」を買ったら、炭酸が入っていたり、またあるときはミカン風の甘味がついていたり。いろはすの製品ラインナップを熟知していない僕にとっては、買うのに抵抗がある。

 結局、病院を出て自販機を探して走る。妹の病状が急変したというのに主治医は海外に行ってしまっており帰国に数日かかる。恨み言を吐いても僕には何もできない。自販機を探すと同時に襲いくるのは途方もない無力感であり、自分には何もできない、ひとえにその兄としての情けなさである。

 ふと(あめゆじゅとてちてけんじゃ)のフレーズが頭をよぎった。中学か高校の国語の授業で習った、宮沢賢治の詩作。表題は、永訣の朝。

 けふのうちに
 とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
 みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
 (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

 の書き出しで知られるこの詩は、若くして世を去った妹の死を悼んで書かれたものである。詩の全編は「宮沢賢治 『春と修羅』 - 青空文庫」でご覧いただきたいが、永訣の朝のなかで(あめゆじゅとてちてけんじゃ)の言葉は四回も繰り返される。

 熱に浮かされた妹が『雨雪を取って来てちょうだい(あめゆじゅとてちてけんじゃ)』と賢治に頼んで、賢治は妹のことを想いながら雪のみぞれを集めに行く。

 改めて読み返すと、これほどに、切実で、切迫した、悲しい歌があるだろうかと心に突き刺さる。

 もっとも雪のなかみぞれを取りに行くのと、自販機でミネラルウォーターを買いに行くのとでは、天と地ほどの差があるのかもしれない。しかし薄暗い曇り空を見上げるとどうしてか(あめゆじゅとてちてけんじゃ)が幾度も想起されては、胸が痛くなるのである。

 結局、自販機を四台回ってもふつうの水もといミネラルウォーターは見つからない。けれど初めからそんな徒労に明け暮れる必要はなかった。病院の目の前にあるセブンイレブンに行けばよかったのだ。

 僕はセブンイレブンで「奥大山の天然水」なるブランドのミネラルウォーターを買って、病室に戻った。妹は目を閉じていた。

 原因もよくわからない。ましてや未成年で本来かかるような病ではなく、不可解な点が多い。退院の目処は立たない。

 不安な気持ちになり、病名でGoogle検索をかける。案の定、名のなきライターが書いたであろう、医療系キュレーションサイトの記事で埋め尽くされている。WELQ(ウェルク)の炎上騒動のときには、どこか他人事な気持ちがあったかもしれない。

 いざ当事者になってみると、思う。これはたしかに、罪なのだ。単に一個人や一企業だけが背負えるものではない、インターネットという巨大な、資本と情報との過剰結合が生み出した、罪なのだと。

 手元のタロットカードを一枚引く。

 出てきたのは小アルカナのソード「剣10」の逆位置だった。

 

 時間はかかる。

 今はじっと、夜明けを待つしかない。

(了)

貸仮想通貨サービスの恐ろしいリスクに気づいてしまった話

貸仮想通貨取引所のひとつであるcoincheckには「貸仮想通貨」なるサービスがある。

イメージとしてはSBI証券の「貸株制度」の仮想通貨バージョンだ。仮想通貨を一定期間貸し出すことで、利子が得られる仕組みとなっている。

この金利がなかなか良くて、貸株だと年利0.1%だとか0.5%だとかそのレベルなのだけれど、coincheckでは最大で年率5%の金利を受け取れる。

(※補足:利息は日本円ではなく仮想通貨で付与される。仮想通貨は法定通貨ではないから、厳格には「利子」ではなく「利用料」と表記される)

coincheckで仮想通貨を貸すと利子がもらえる!

貸し出し期間と金利は下記の通り。

  • 14日間 年率1%
  • 30日間 年率2%
  • 90日間 年率3%
  • 365日間 年率5%

資産を年利5%で運用するのはなかなか大変だが、貸仮想通貨ならこれが実現できる。

僕は、めっちゃええやん!!と思って、さっそく試しに「14日間 年率1%」のコースで手持ちの仮想通貨(XEM)を貸しに出した。

悲しいことに、悲劇はその14日間のうちに起こった。

貸仮想通貨サービスの最大のリスクは「損切りできない」こと

一応、貸仮想通貨サービスのリスクについては事前に調べていた。

貸仮想通貨は「消費貸借契約」であり、無担保の貸し出しだ。貸出期間中に万が一取引所が破綻すれば、貸し倒れとなる可能性がある。

しかし、どう転んでも二週間後にcoincheckが倒産するとは思えない。だから、ローリスク&ミドルリターンでめっちゃお得やなあ……という軽い気持ちで、貸仮想通貨サービスに申し込んでしまった。

もうひとつの致命的なリスクに気がつかぬまま――。

大暴落は唐突に訪れる

貸し出してから数日ほど経った日のこと、はてなブックマークを眺めているとこんなニュースが目に飛び込んできた。

悪材料を受けて仮想通貨の相場は総崩れし、ビットコインは50万円台から30万円台へ。僕が買っていたネム(XEM)は36円から18円へと大暴落した。

ネムに関して言えばたった10日のうちに、価格が半値になってしまったのだ!

株式であれば企業価値が毀損されない限り、理由もなしにここまで下げることは考えにくい。しかし仮想通貨の場合は「値上がり期待」の需給で価格が決まってしまっており、ストップ安もないから、落ちるときは底なしに落ちてゆく。恐ろしい恐ろしい。

パニックはパニックを生み、連鎖する。

逃げたいのに「逃げられない」恐怖

僕は下落チャートを眺めながらワナワナと震え(損切りしたい……損切りしたいよぉ……)と涙を浮かべて手を合わせていたが、貸出中だから売ることができない。損切りができない。貸出の中途キャンセルは、もちろん不可である。

ただ真っ青になって、墜ちてゆくナイフを見守るだけだ。

そう、貸仮想通貨サービスの最大のリスクは「貸出中にどんな悪材料が出たとしても逃げられない」こと。

これはcoincheckが破綻するよりも、はるかに起こり得ることで、実際に起こっている。

価格変動リスクの高い商品を貸しに出すことの危うさを、僕は理解しておかなければならなかった。

もしもこれから貸仮想通貨サービスを利用してみようかなと考える人がいたら、このリスクだけはどうか頭の片隅に覚えて置いてほしい。

(追記)

18年1月7日現在、coincheckは未だ「仮想通貨交換業者」としての認可を金融庁から受けていない。破綻はないにしても、金融庁未認可のまま運営を続けるcoincheckには潜在的なリスクがある。

(了)

在宅ワーカーからの搾取によって成り立つテープ起こし業界の闇

正直に言ってこのような暗い内容の記事はもう書きたくもないのだが、あまりにも我慢ならないものを見つけてしまった。

後述するが、僕は一般社団法人 日本クラウドソーシング検定協会を経由してこのテープ起こし会社を知った。

上のサイトを見てもらえれば分かるとおり、テープ起こしを1分99円というあり得ない廉価で引き受けている。

通常、テープ起こしの相場は安くても240円/分くらいだ。通常の依頼で200円を切るなら大した買い叩きであるし、ましてや100円を切るだなんて考えられない。

だから上記のサイトを見たとき、ちょっとびっくりしてしまった。悪い意味でショックを受けた。

「安い! お値段なんと99円!!」その人件費はどこから……。

在宅ワーカーの時給は最低賃金を下回る

繰り返すけれども、先に挙げた「タイピングベース」なるサービスでは、テープ起こしを99円/分で引き受けている。これがいかに非常識的なことなのかを説明したい。

上記の採用情報をご覧のとおり、タイピングベースは在宅ワーカーにテープ起こしを外注している。(業務委託契約)

僕もテープ起こしの仕事をしていたことがあるのだけれど、テープ10分を起こすのには大体1時間の作業を要する。つまりテープ1分=99円で請けるのであれば、時給換算では990円前後となる。

ただしこれはクライアントから個人として直取引で請ける場合であって、タイピングベースの在宅ワーカーとして作業した場合は、分単価99円の報酬から[会社の利益]および[内勤スタッフの給与]がさらに差し引かれるはずである。

時給換算で800円か700円か、もしかしたら500円を切ることも十分に考えられるが、東京都の最低賃金である時給932円を上回る報酬を在宅ワーカーが得られるとは到底思えない。

この記事のタイトルのとおり。

今のテープ起こし業界は、在宅ワーカーからの搾取によって成り立っている。

暗澹たる気持ちである。

日本クラウドソーシング検定協会とタイピングベースの繋がり

やるせないと感じるのは、このような在宅ワーカー買い叩き企業のお仕事を、よりにもよって在宅ワーカーを支援するはずの日本クラウドソーシング検定協会が紹介してきたことだ。

日本クラウドソーシング検定協会は、駆け出しWebライターのための資格である「Webライティング実務士」の検定試験を実施している団体だ。

ここの検定教材の質がひどい!という話は、昨年に当ブログでも記事にした。

上のWebライティング技能検定の教材が、4万円も取るうえにまったくひどいクオリティだったので、本当に怒っていた。

そして今回、技能検定合格者に対して「タイピングベースに登録して在宅ワーカーになると、先着200名にモバイルバッテリーをプレゼントするよ」というメールが協会から送られてきたのだ。

上のページからも、日本クラウドソーシング検定協会が「タイピングベース」への登録を合格特典としていることを確認できる。

もう、悲しみのぶつける先が見つからないのだけれども……。

4万円の教材で「Webライターの資格」を与え、その資格者に買い叩きテープ起こしの仕事を紹介する。

これを搾取と言わず何であるのか。

タイピングベースにおける「はてブ」スパム(ブラックハットSEO)

今回、僕が少し強気になって特定のサービスを批難している理由のひとつとして、タイピングベースがブラックハットSEOをしている可能性が高いということが挙げられる。

タイピングベースのトップページには、34件のブクマがついている。すべて無言ブクマである。しかもうち33件がデフォルトのはてなアイコンである。

そして各ユーザーのブックマーク先を確認したところ「seoマスターの株式会社ディテイルクラウドクリエイティブ」という会社のトップページをブックマークしているユーザー(計10名)と100%一致した。

はい。完全に真っ黒な、はてなブックマークスパムですね。

在宅ワーカーはブラック企業と戦ってほしい

僕もこんな記事を書いたからには、SEOマスターからネガティブSEOや嫌がらせを仕掛けられるかもしれない。そのときはそのときである。

ただひとえに、テープ起こしをしている在宅ワーカーの人たちには、このようなブラック企業に負けることなく、戦ってほしい。

クライアントとフリーランスは、対等な関係性のうえでビジネスをしている。適正な価格で仕事を請け負うことは、社会のためであり、相手のためであり、そして何より自分のためでもある。

間違っても分単価99円の仕事を請け負ってはいけない。

僕とてまったく他人事ではなく、この業界を、買い叩かれるWebライターや在宅ワーカーの未来を、本当に何とかしたいと切に願っている。

一寸先は闇なれど、ともに戦っていこう。

(了)

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新曲「原稿の歌・改」公開のお知らせ

おそらく今ここにいらっしゃる皆さんのほとんどは覚えていまい。いや、この僕、五条ダンにとっては黒歴史そのものだから忘れ去られた方が望ましいとさえ言えるのだが、しかし歴史は繰り返されるものである。

ちょうど半年前、「Chordana Composerで自動作曲した曲をCeVIOに歌わせてみた話」なる記事を書いた。つまり生まれて初めて、YouTubeに自分の作詞した歌を投稿した。

もう一度晒しておくと、この歌である。


原稿のうた

原稿のうた 歌詞(五条ダン)

原稿が終わらないの

〆切もうすぐなのに

筆は進まず やれやれ詰んだ

どうしよ

やる気ないない 精神が堕落するよ

 

先週 俺はどうして

ゲームしながら グダグダしてた

やればできる

ひたすら書くしか道はないんだぞ

書くぞ

とりあえず今日は寝て 明日から

やるー♪

ふっ、これで僕も人気YouTuberの仲間入りだぜ!!

と当初は大はしゃぎしていたものの、後から聴き返してみたらそれはもうひどい歌詞だし、顔を真っ赤にしてベッドに潜り込んで、ゴロンゴロンとのたうちまわるほどの黒歴史であった。

しかしクリエイターとしての矜持があるから、一度世に出したものを消しはしない。

そして半年を経た今、ふたたび歌作りに挑戦してみた。

出来上がったものがこれである。


原稿の歌・改

原稿の歌・改!!!

原稿の歌・改 歌詞(五条ダン)

終わらぬ原稿 近づく〆切り

失うやる気と 膨らむ焦りと

書きたい気持ちと やめたい諦め

見いだすたのしさ 初心はどこへ

 

伝えたくってペンを握った あの日の気持ち忘れたの?

才能がない 努力できない

言い訳をして 今日も書かない

電気を消して 布団に入る

疼く未練が 目を覚ます

 

起き上がれ 執筆意欲

 

あ……はい、……ごめんなさい。

自分で作ってみてはじめて実感できること

ふだんからニコニコ動画で、VOCALOIDやVOICEROIDの動画を見るのが好きなのだけれど、実際に自分の手で動画をつくってみて、その大変さ……というか必要なスキルの多さを身に沁みて痛感することとなった。

ボカロPはほんとうに偉大だと感じるし、尊敬する。

曲をつくって歌詞も考えて、DTMもできてイラストも描けて、そのうえ動画制作もこなすだなんて、一体どれほどの修行を要するのだろうか。考えるだけでも気が遠くなる。

ともあれ、今回(二作目)も僕はまたひどい歌を生み出してしまったわけだけれども、それでも歌をつくるのは面白く、新鮮で、楽しい作業であった。

我が絶望的な音楽センスにも負けず、けなげに歌ってくれた、CeVIOの歌姫さとうささら氏には心から感謝申し上げたい。

良きマスターになれるよう、頑張ります。


CeVIO さとうささら ソング&トーク スターター |ダウンロード版

上記リンク先はAmazon。ただし公式サイト(CeVIO Official Web)から無料体験版をダウンロードできるので、購入の前に体験版を試してみるのがおすすめ。(PCのスペックによっては動作が厳しいため)

 

僕、五条ダンのYouTubeチャンネルはこちら!

→ 五条ダン(時巻クラブ) - YouTube

現時点でチャンネル登録者ゼロという悲しい状態なので、もっと良い動画を投稿できるよう、精進します。

(了)

クリエイターが知っておきたいビットコインのリスクとデメリット

はっきり言ってしまって、僕は他者に「ビットコインを使おうよ!」とおすすめする気持ちはみじんもなくて、むしろこれから暗号通貨を始めようとする友人がいようものなら「や、やめた方がいいんじゃないかな……」と止める側の人間である。

というのは、先日とある仮想通貨を10万円分買ったのだけれど、その3日後の資産評価がこの有様だ。

(※画像はAndroidアプリ  ビットコインウォレット coincheck のスクリーンキャプチャ)

 

 なんということでしょう。

 10万円が、数日寝かせただけで77,429円に……。

含み損なので損失は未確定だが、円換算で2万円ちょっと減らしてしまった。

現状、仮想通貨はどこぞの仕手株かってくらいに値動きが激しい。それこそ前日比10%単位で上がったり下がったりする。これは僕が買ったネム(XEM)に限らず、ビットコインでも同じ。

仮想通貨は価格変動リスクがあまりにも高く、むやみに人に勧められるものではない。

この記事ではそのような生々しい話を入れながら、クリエイターが(仮想通貨でマネタイズしてやろうと考える際に)知っておかなければならない、ビットコインのリスクとデメリットを紹介しよう。

1.ファンに対して価格変動リスクの高い商品を勧められるか?

まずこの一点に尽きる。

例えばクリエイターが、VALUでビットコインを集めるにせよ、投げ銭や寄付形式でビットコインを集めるにせよ「私を応援するために円をビットコインに換えてね」とは言いづらい。

なぜならば、それは「価格変動リスクの高い商品」をファンに対して勧めることに繋がるからだ

仮想通貨のチャートを調べてもらえば分かるとおり、前日比+15%だとか、-15%だとか、株や為替以上に値動きが激しい。

今、ビットコインは上昇トレンドにある。損をしている人は少ないかもしれない。

しかし仮想通貨バブル(?)が弾けて大暴落が始まったとき、目を覆うほどの惨状が広がるのは容易に想像できる。

補足すると、すでに幾ばくかのビットコインを保有している人に対して「ビットコインで支援してください!!」と呼びかけること自体に何ら問題はない。その人はすでに仮想通貨のリスクを知った上で、それを保有しているはずだから。

問題なのは、クリエイターに乗せられたファンが、仮想通貨のことをよく知らずに手を出してしまうことだ。VALU界隈の騒動も見過ごせない。

(注釈)

VALU:自分を株式会社に見立てて、株券のようなもの(VALU)を発行できるサービス。VALUの価格は需給によって変動し、売買はビットコインで行われる。VALUを保有するVALUER(株主)には優待を出すことができる。

クリエイターがファンに資金援助を募れるサービスとして注目される。

詳細は上記公式サイトを参照されたし。

VALU界隈の騒動:著名なユーチューバーがVALUにおいて相場操縦・風説の流布・インサイダー取引のようなことを行い、ファンからビットコインを巻き上げた一件。

有名なブロガーやユーチューバーあるいは漫画家がVALUを発行したとき、ファンはよく分からないままに円をビットコインに交換しようとする。

円を仮想通貨に換えるのは、手間もかかるし、手数料もかかるし、リスクもある。

ある日ビットコインが暴落したとしても、クリエイター側はその責任を負えない。

(参考)円決済でファンがクリエイターを支援できるサービス一覧

クリエイターがファンからお金を集めて優待を出したいのであれば、ふつうに円決済できるサービスを使った方が、ずっと安心できる。

例えば下記のサービスを使えば「自分を支援してくれた人だけが読める有料記事、ダウンロードコンテンツ」を円決済で売り出すことができる。

2.(デメリット)ビットコインを送るには送付手数料がかかる

「少額の投げ銭をしたいときや、寄付をしたいときにはビットコイン送金が役に立つ」とメリットが語られることも多い。

たしかに、銀行口座をネットに晒して「私に寄付してください!」とは、なかなか言えないし、本名がバレてしまうデメリットもある。銀行振込には手数料がかかるから、100円だとか200円だとか、少額の投げ銭をするには向かない。

そんなとき、ビットコインならば100円でも200円でも、ほんのわずかな手数料で送金できる。

と、僕も思い込んでいたのだが、ビットコインを相手に送るときには手数料が必要となる。取引所によっても異なるが、コインチェックだとBTC送付手数料は0.0005BTCだ。

安い!と思われるかもしれないが、現在のレートで円換算したら236円もかかってしまう!

これ国内だったら、ふつうに銀行振込の方が安いではないか。

三井住友銀行のATMから他行宛に振り込む場合でも216円。住信SBIネット銀行ならば、月3回まで無料で振り込める。

ビットコインの手数料が安いとか言われるのは、あくまで海外送金と比較した場合であって、国内送金であればふつうに銀行振込の方が安いし便利である。

ビットコインの普及によって、クリエイターへの少額寄付・投げ銭システムが普及するかと問われれば、難しいと答えざるを得ない。

あと「送金速度が早い」といったメリットもさかんに言われるが、これも海外送金と比べた場合であって、国内送金であれば銀行振込の方が圧倒的に早いです。

ビットコイン決済は早くても10分、場合によっては数時間~数日待たないと反映されないケースもある。

3.(デメリット)円→ビットコイン→円と交換するときにも実質的な手数料がかかる

仮想通貨取引所のアフィリエイトサイトで「ビットコインは売買手数料がかからない」と謳っているところがあるものの、これは嘘に近い。たしかに、売買手数料という名目では取っていない。

しかしスプレッドが開いているため、円→BTC→円の交換には実質的な手数料がかかる。

例えば仮想通貨取引所のひとつである、GMOコインの売買画面を確認したところ、次の画像のような価格が表示された。

(※画像は GMOコイン売買画面のスクリーンショット。売却価格および購入価格は常に変動します)

 

1BTC(ビットコイン)の

  • 売却価格:473,825円
  • 購入価格:476,825円

つまり1BTCあたり3,000円のスプレッド(価格差)が開いている。

これはどういうことかと言うと、今この瞬間に「円→ビットコイン→円」への交換を行った場合、それだけで3,000円はお金が減る。

言い換えると、1BTCあたり3,000円分の実質的な売買手数料がかかっているという意味だ。

これは、株やFXと比べると割高に感じる。SBI証券で株価48万円の株式を売買したとしても、約定にかかる売買手数料は600円もかからない。(株とビットコインを比較するのもあれだが)

 

なおコインチェックで確認したところ1BTCのスプレッドは数百円だったので、取引所によっても差がかなりあるようだ。

4.(デメリット)仮想通貨取引所から日本円を出金するときにも手数料がかかる

仮想通貨取引所のビットコインウォレットにBTCを貯めて、いざ日本円に換えて出金しようとするときに、上記の実質売買手数料に加えて、日本円の出金手数料もかかってしまう。

例えば、僕がメインで使っているコインチェックだと、日本円の出金時に400円の手数料が引かれてしまう。

ここまでくどくどと述べてきたが、要約すると

  1. 日本円をビットコインに換える
  2. ビットコインを相手に送る
  3. ビットコインを日本円に換える
  4. 日本円を仮想通貨取引所の口座から引き出す

のすべてのプロセスにおいて手数料がかかってしまう。

ゆえに、投資や投機を目的とする以外で「ビットコインを使うメリットが薄い」ということを伝えたかった。

5.(デメリット)ビットコインの送付速度が遅い

もしビットコインの決済スピードが早い(リアルタイムで反映される)のであれば、コミケなどの同人誌即売会で活躍する機会はあったと思う。

しかし現状、ビットコインは送金速度が遅いので、リアル決済の場ではなかなか使いづらい。

仮想通貨取引所ビットフライヤーのFAQにはこのように注意書きがある。

ブロックチェーンにおけるトランザクションの承認には時間がかかる場合があり、承認に数日を要することもございます。

引用:仮想通貨の送付が反映されません。 - ビットコインのサポート【bitFlyer】

トランザクション(入出金取引)の完了に数十時間も待たされたという話も出ている。将来的には解決されるかもしれぬが、何にせよ使いづらい。

まとめ

クリエイターがビットコインを使うには、下記のリスクとデメリットがある。

  1. 価格変動の激しい仮想通貨を自分のファンに対して勧めるリスク
    僕が仮想通貨投資で、10万円をたったの三日で7万7千円に減らしてしまった話を思いだそう。投資家が損失を出すのは自己責任で済む話だが、有名人が「ビットコインおすすめやで!」とファンを煽って買わせた場合、話は別である。
  2. BTC建てで貯めた売上金が、仮想通貨の相場崩壊によって大きく目減りしてしまうリスク
    ビットコイン建てで売上金を貯めた場合、もしも仮想通貨バブル(?)が弾けて10%も20%も価格が下落したとき、自分が大きく損をしてしまう。
  3. 何かと手数料がかかってしまい、少額決済や投げ銭システムに使いづらい
  4. 何かと手数料がかかってしまい、国内であれば銀行振込の方が安く済む
  5. 送金速度が遅く、同人誌即売会などのリアル決済の場では使いづらい

クリエイターがマネタイズをするのであれば、わざわざビットコインにこだわる必要はなく「BOOTH」や「Enty」を使えば良いし、あるいはKDPで電子出版をしたって構わない。

「クリエイターはビットコインを始めるべし!」と無責任に勧める情報がWebに増えてきたので、注意喚起を兼ねてここではリスクとデメリットを取り上げた。

以上、クリエイターの皆さんのお役に立てれば嬉しく思う。

(了)

Amazonプライムの特典は本当にメリットばかりと言えるのか?

プロブロガーはどうやら「Amazonプライムをおすすめしなければならない宿命」に取り憑かれている。嘘だと思うならAmazonプライムの体験談を検索してみよう。

ほとんどの記事は、プライム会員のメリットを長文で羅列し、ひたすら読者を勧誘するのに終始する。

せっかくブロガーとして活動しているのだから

自分の体験を語ってよ!!

と僕は思うのだが。

ちょうど明日でAmazonプライムの加入期間を終える。これを機に、実体験に基づくレビューを書いていきたく思う。

使い勝手の悪い「Kindleオーナーライブラリー」

去年の8月から12月まで「Kindle Unlimited」という電子書籍の読み放題プログラムに加入していた(月額980円)。なので、プライム特典のひとつであるKindleオーナーライブラリーを使う機会はほぼ無かった。

しかし今年に入ってから利用してみて、使い勝手の悪さに戸惑った。

プライム会員は毎月1冊、Kindleオーナーライブラリーの本を自由に読むことができる。

ところが問題なのは「Kindle端末を持っている人しか利用できない」言い換えれば、PCやスマホのKindleアプリからではオーナーライブラリーの本を読めないのだ。

ただ、僕はKindle Paperwhiteの端末を持っている。だからオーナーライブラリーは問題なく利用できる……のだけれども……。

しかし困ったことに、Kindle端末のストア検索がめちゃくちゃ使いづらい!

読み込みに時間がかかるし、ときどきフリーズして落ちてしまう。画面が小さくて、書籍の一覧を6冊ごとしか表示できない。

さらにオーナーライブラリーの対象本には、個人出版の本も大量に引っかかる。セルフパブリッシングだから質が低いとは口が裂けても言えないが、とにかく、自分の読みたい本を見つけるのが難しい。

結局、Kindleオーナーライブラリーで読む本を探すのに、ぐだぐだと1時間近く迷ってしまう。その時間があれば、最初から自分の読みたい本を購入してしまった方が、トータルでは得なのに……と我ながら後悔する。

ひとつ理解に苦しむのが「Kindle UnlimitedではPC・スマホからでも本を選べて読めるのに、なんでKindleオーナーライブラリーではできないんだ」ということ。

ここは将来的に改善されてほしい部分だ。

使うのに気が引ける「お急ぎ便」

プライム会員は、通常360円かかる「お急ぎ便」を無料で使うことができ、プライム会員であればおそらく商品購入時にデフォルトでチェックが入っていると思う。

しかしながら、お急ぎ便をはじめとする過剰サービスが配送業者を圧迫しているのは周知の事実だ。

上のような話題を見かけるたびに、心が苦しくなる。

お急ぎ便よりも「急がなくていいよ便」をオプションで用意してほしいなぁ……と思う今日この頃である。

ともあれ、プライム特典である「お急ぎ便」および「お届け日時指定便」の無料化が、利用者にとって便利なのはたしかだ。

しかしAmazonは通常配送でも十分すぎるほどに早い。それに、我が家には宅配ボックスがある。僕としては、Amazonの特別配送オプションを使おうと感じたことは、ほとんどない。

ところで先日「JA.AliExpress.com」という中国の通販サイトを利用する機会があり、頼んだ商品は中国からの国際配送で、1ヶ月近くも到着を待たされた。

だけど商品が届くのを待つ1ヶ月間は、不思議とわくわくとした気分だった。

そういえば最近は「待つ楽しみ」を実感する機会が減ったな、と思う。急ぎで必要なものでないのなら、配送はむしろ待たされた方が楽しいこともある。

待つ時間を楽しむ、心の余裕を持ちたい。

「プライムミュージック」は評価したい

良いところも書いておこう。

Amazonプライム特典の「Prime Music」は評価したい。100万曲以上の楽曲が聴き放題ということで、作業用BGMには最適である。

今となっては懐かしいNHKドキュメンタリー番組「そのとき歴史が動いた」のサントラも聴けるし、あと個人的にはアニメ「ふらいんぐうぃっち」のサウンドトラックアルバムも素晴らしかった。

他にもMegpoid GUMIのソングアルバムも良かったし、槇原敬之のアルバムもプライムで聴いて、とても懐かしかった。CDも持っているのだけれど、きょうびCDプレイヤーを使う機会もめっきり減ってしまった。そんなときこそストリーミング音楽配信である。

とはいえ、知っているアニソンの登録数は少ない。(アニソンとボカロ曲しか知らない僕もあれだが)ゆえに、ほとんどは自分の知らない曲を聴いてみるスタイルとなる。

洋楽なんかも知らない曲ばかりで、しかし聴きながら原稿執筆すると大いにはかどる。あ、カーペンターズも聴けます!

あとオカルト方面のジャンルだと「ヘミシンク」のアルバムがプライムに13件もあるのは正直驚きだった。幽体離脱を趣味とする人はお試しあれ。

個人的に、Amazonプライム特典のなかで最も満足度が高いのはPrime Musicであるといっても過言ではない

ここで話題に出すのも憚られるが「作業用BGMを聞いて作業してたよ」と言うとき、決して少なくない、というか相当に多くの人たちが、YouTubeに違法アップロードされた作業用BGMを聴いている。だがそれでは著作権違反しているアカウントに広告収益が入っても、楽曲を制作するクリエイターには一切得がない。

Amazon Prime Musicの楽曲ライセンス契約がどのようになっているかは不明だが(英語で調べても情報が出てこなかった)少なくとも音楽業界やアーティストに一銭も入らないということはないはず。

Prime Musicで素晴らしい曲に出会ったときは、どんどんダウンロード購入するなり、グッズを買うなりして支援したいもので、とにかくPrime Musicがお得かどうかは別として、音楽にはお金を支払いたい。

「プライムビデオ」はアニメもドラマも映画も観たい人におすすめ

僕はアニオタなので、実写の映画もドラマもほとんど見ない。

なので上の記事でも書いたとおり、見放題サービスはプライムビデオではなく「dアニメストア」を利用していた。過去形なのは、観たい作品をすべて観終わり、先月解約したため。

だから「アニメしか見ないよ!」という人は、プライムビデオよりもdアニメストアの方が圧倒的に登録作品数が多いので、そちらの方が満足できると思う。

ただ逆に「dアニメストアにはないのに、プライムビデオにはある」作品もいくつかあって、例えば2017年8月現在

  • 魔法少女まどか☆マギカ
  • クズの本懐

の2つは、プライムビデオの方でしか視聴できない。

7月に感想記事「【感想】クズの本懐、あるいは実存不安の文学 - Webライターとして生きる」で書いたが、プライムビデオで観た『クズの本懐』がじつに良かった。じつに素晴らしかったので、これだけでプライム会費の元は十分に取れたなと感じた。

ドラマと映画は、観ていないのでわからない。

正直に言って、僕みたいにアニメオンリーの人には(作品数自体が少ない)プライムビデオはあまりおすすめできない。

しかし「映画でもドラマでもドキュメンタリーでも何でも楽しめるよ!」って人には、プライムビデオは大いに魅力があるだろうと思う。

「プライム会員限定先行セール」は本当に得かどうか疑ってかかるべし

Amazonでやっている「タイムセール」に、プライム会員であれば一般会員より30分早く参加できる。この他に「プライムデー」というプライム会員だけの大規模セールに参加できる特典なんかもある。

で、タイムセールでは通常価格から80%OFFだとか90%OFFだとか、びっくりするくらい値引きされている製品を見かけることがよくある。

そこで天才的な僕は閃いて、「待てよ……Amazonのタイムセールで商品を手に入れて、それをメルカリで転売したら儲かるのでは?」と考えた。

さっそく、Amazonタイムセールで大幅に値引きされている製品をいくつか、メルカリでも検索してみた。結果、ほとんど値引き額と同じ価格帯で売られていましたね……。(もちろんメルカリでは新品/未使用ステータスで売っている)

つまり、そういうことです。

Amazonタイムセールでの 80%OFF! 90%OFF!みたいな値引き表示に安い!!と惑わされてはダメで、必ず他の通販サイトでの相場も調べておかなくてはいけない。

もちろん、なかには本当にお買い得な商品もあるだろうけれど、なんにせよ安物買いの銭失いと言うように、二重価格に騙されないよう気をつける必要がある。

終わりに

他にも「Amazonパントリー」「Amazonファミリー」「プライムフォト」といった特典があるものの、個人的には使う必要性が感じられず、使っていない。

結局のところ、Amazonプライムへの加入を決める特典となり得るのは(特別配送オプションを頻繁に使う場合を別として)

  • プライムミュージック
  • プライムビデオ

のふたつだと考える。

この双方に魅力を感ずるのであればプライム加入して損はないだろうし、そこまで必要じゃないな……と感じた場合はおそらくプライムに加入するメリットはない。

僕としては、Amazonプライムは「年間プラン」ではなく「月間プラン」で入るのをおすすめしたい。

年間プランだと 3,900円/年で、月換算 325円となる。

対して、月間プランでは 400円/月だ。

年間プランの方が得じゃないかと思われるかもしれないが、プライムミュージックにせよプライムビデオにせよ、聴きたい(観たい)作品はそんなに数があるものでもないし、1ヶ月も聴き放題、見放題を体験すればだいたい満足してしまう。

下手に年間プランに入ってしまうと「もっとたくさん観なきゃもったいない!」と僕なんかは謎のプレッシャーを感じてしまい、かえってもったいない。

なので例えば「1月・4月・7月・10月の隔月だけプライムに加入する」みたいな隔月方式にした方が、聴き放題・見放題コンテンツを気楽に楽しめる。

じつは、僕はdアニメストアやKindle Unlimited(読み放題)にも加入していたが、この隔月方式で楽しんでいた。

1年のうちに4ヶ月間だけプライムの月間プランに加入する場合、年間費用は400円 × 4月で1,600円しかかからない。アニメも年4クールだし、新作アニメが最終話まで出揃った時点で一気見するのもなかなか良いものである。

以上、長々と書いてしまった。せっかくなので最後にアフィリエイトリンクだけ置いておきたい。

(プライム会員加入・無料体験は上記リンクからできます)

そうそう、ひとつ大切なことを言い忘れていた。Amazonプライムは30日間の無料体験ができるのだが、注意しておきたいのはオプトアウト方式なのである。

つまり30日の無料体験に登録して、そのまま何もせず30日を超過してしまうと、勝手に有料会員に加入させられてしまう。

なので有料会員に移行する気のない人は『アカウントサービス > Amazonプライム会員情報』のページから、会員資格が自動的に更新されないよう、設定しておく必要がある。

更新止めるの忘れてて知らない間に有料会員になってしまった!という場合は、Amazonカスタマーサービスに連絡すると返金してもらえる。

僕の父も「クレジットカードの明細で心当たりのない引き落としがある。ハッキングされたかも」と電話で相談してきて、何事かと思ったらAmazonの仕業だった。お試し体験のボタンを何となく押したら、知らないうちにプライム有料会員になってしまっていた……というオチだ。

以上、Amazonプライムを検討する人のお役に立てば嬉しく思う。

(了)

「蝶が怖い」僕がわざわざ昆虫館で蝶を見てきた話

ゴキブリやムカデやナメクジよりも、蝶の方が嫌いだ。嫌い、というよりも怖い。恐怖を感じる。世の中には蝶恐怖症なるものがあるらしく、僕もそのひとりなのかもしれない。

「蝶が怖い」とはっきり自覚したのは、自分が4歳のときだった。当時住んでいた古いアパートの階段の壁に、一匹の大きな蛾が張り付いているのを見たのである。

蛾は、翅の大きさが2メートルはあるように感じられた。モスラかよ!と突っ込みを入れたくなる。でも、子供の目にはそれくらいに巨大な蛾の姿が映った。

蛾は、風に翅を揺らめかせる。枯れた葉っぱのような色をしていた。僕と手を繋いで、隣にいた母が、蛾を見上げる。そして一言、「死んでる」と呟いた。

耐えがたい恐怖のようなものが、心のなかに宿った。

子どもの頃は、蝶に似ている葉っぱを見るのも怖かった。昆虫図鑑の蝶の写真もダメだった。

そのくせ、イモムシは大好きで、小学校では嬉々としてイモムシの飼育をしていた。やがて、イモムシが蝶に変身するという衝撃の事実を知り、絶望を味わうこととなる。

高校生になる頃には、さすがに葉っぱや図鑑を見ても動じなくなった。しかし蝶は怖いまま。ちょうど横断歩道を渡っているときに、前方から蝶が飛んできた。頭が真っ白になり身体がフリーズしてしまい、危うく車に轢かれかけたこともあった。

遠足で山に行ったときには、同級生がクマバチから逃げ回るなか、僕は反対方向にモンシロチョウから逃げ回っていた。

興味本位で『チョウは零下196度でも生きられる』(太田次郎・著/PHP文庫)を読んだらますます怖くなったし、蝶を冷凍庫に入れても死なないエピソードは背筋をゾッとさせる。

標本作りのときに、蝶の胸を指でつまんで圧殺する話も耐えられない。

国語の教科書には、ヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』が載っていて、主人公が蝶の標本を指で潰してバラバラにするシーンが出てくる。あれはトラウマものだ。

前置きが長くなった。ともあれ、これだけ言葉を尽くしてもまだ全然足りないくらいに、僕は蝶がこわい。

蝶を見にわざわざ昆虫館に行った

仕事の関係で、大阪府箕面(みのお)市に行く機会があった。まったく偶然だが、数日前に箕面公園の昆虫館がいいよ!というブログ記事(昆虫好きの楽園! 大阪・箕面公園の「昆虫館」に行ってきた! - 接客業はつらいよ! あけすけビッチかんどー日記!)を目にしていた。

箕面公園昆虫館には「放蝶園」という施設があり、ビニールハウスのなかに200匹以上の蝶が放し飼いにされている。

僕も大人になり、昔よりかは蝶が大丈夫になってきた。だから怖い物見たさというか、蝶恐怖症克服のために、ええいままよ!と箕面公園昆虫館を訪れることにした。

箕面公園昆虫館は、30分もあればすべて見て回れるくらいの施設だ。

入館料は大人270円、中学生以下は無料と手頃である。訪れたのは7月下旬の夏休みシーズンで、子どもがたくさん来ていた。

カブトムシ

中に入るとカブトムシの生体展示が目に入った。

カブトムシはかわいい。虫そのものは好きで、小学生のときはカブトムシを育てていた。写真は日本のカブトムシだが、コーカサスオオカブトやヘラクレスオオカブトも展示されていた。夏の特別展示とのこと。

残念ながら写真はあまり撮れなかった。というのは、デジタル一眼レフのニコンD5000を持ってきたのだが、あろうことか望遠レンズしか用意してこなかったのだ。展示を撮影しようにも距離が近すぎて焦点が合わず、ピンぼけしてしまう。かといって離れて撮ると他の人の邪魔になるし、これはミスったなあと思った。

フルーツゴキブリ

他に、落ち葉に擬態したカマキリや、巨大なゴキブリの展示もあった。

写真はマダガスカルのフルーツゴキブリ。大人気のペットなのだとか。なるほどたしかに愛嬌がある。

さて、肝心の放蝶園に足を踏み入れる。自動ドアをくぐると、そこはもうホラーハウスだ。天井を見ると、大量の蝶がわしゃわしゃあーと飛んでいて、あ、これはもう死ぬわと思った。

至る所に蝶が飛んでおり、逃げ場もない。そこはもうオバケ屋敷よりも遙かに恐ろしい場所で、僕はカチコチに固まってしまった。

放蝶園の奥の方に、蝶のなる木(?)みたいのがあった。木の実のような感じで、蝶がぶら下がっている。そこに幼児とお父さんの家族連れが来ていて、子どもが蝶に触りたがっていた。

お父さんは「よしよし」と言って子どもを抱きかかえ、木で羽休めする蝶に、手を触れさせようとする。子どもはいっぱいに腕を伸ばし、蝶を掴もうとした。蝶は人に慣れきっているのか、まったく逃げるそぶりがない。

放蝶園は、蝶に触るのは禁止である。これは注意しなければいけないなと思って、声をかけようとする。だが、いかんせん周りに蝶がうじゃうじゃといて、身動きが取れない。というよりも、目を開けているだけでも精一杯なのだ。

しかしちょうど良いタイミングで館内放送が入った。「放蝶園の蝶を追いかけたり捕まえたりするのはやめてください」といった趣旨のアナウンスが流れ、その親子は蝶をあきらめた。

僕はそれから片目を固く閉じて、カメラのファインダーに目をくっつけ、望遠レンズで離れた場所から蝶を何枚か撮った。放蝶園には花の密のお皿のようなものがいくつか設置されており、そこで蝶が蜜を吸う様子を観察できる。

ともあれ冷や汗をだらだらと流しながら、何だかんだ言って放蝶園で充実のひととき(?)を過ごし、僕は昆虫館を後にした。

昆虫の魅力が伝わってくる素晴らしい施設だった。ただし、蝶恐怖症の人は、放蝶園はやめた方が良いと思う。ショック療法で克服できるかなと期待したが、無理だったので……。

(※放蝶園の写真は要閲覧注意のため、記事の一番後ろにまとめて掲載しています。記事最下部で警告文を入れますので、苦手な方はそこでブラウザバックしてください)

箕面観光ともみじの天ぷら

昆虫館から30分ほど歩くと、日本の滝百選のひとつである「箕面滝(みのおたき)」を見ることができる。滝のそばは非常に涼しく、設置された温度計を見ると真夏にもかかわらず気温は25℃であった。

箕面滝

川ではたくさんの子どもが水遊びをしていた。売店では、鮎の塩焼きや、フライドポテトやからあげ、きゅうり、それから箕面名物である「もみじの天ぷら」が売られていた。

もみじの天ぷらはイメージに反して甘いお菓子で、その味はかりんとうにも似ている。独特なカラッとした食感があり、他ではまず食べることのできない珍しい菓子なので、箕面にお越しの際はお土産にひとつどうぞ。

もみじの天ぷら

最後に、昆虫館のすぐ近くにある箕面山瀧安寺(りゅうあんじ)(弁財天)にお参りをして、帰った。

瀧安寺

蝶が怖いのはおかしいことではない

以上、蝶が怖い話と、箕面公園昆虫館での体験、それから簡単な箕面観光レポを紹介した。箕面は僕も初めて訪れたのだけれど、なかなか日帰りでも楽しめた場所なので、お近くの方はぜひ行ってみてほしい。

さておき、ゴキブリやナメクジを怖がる人がいるように、蝶が怖いのは決しておかしいことではない。

友人も「俺はテントウムシが怖くて怖くて仕方がないんだ」と言っていた。人によって怖いものはさまざまであり、無理に克服する必要はないんだなと気づかされる。

恐怖心は恐怖心として受け入れつつ、小さな生命の尊さに心からの敬意を払いつつ、平穏に生きていきたい。

(了)

 

蛇足:箕面公園昆虫館「放蝶園」の写真

下記に、放蝶園で撮った写真を掲載します。

蝶の写真が苦手な方はここでブラウザバックしてください。

 

わざわざ写真掲載しなくても良いかなと思ったものの、折角恐怖心を乗り越えて撮影したものなので、載せておきたい。

 

  ◇

 

  ◆

 

これ、蝶が花のベッドで寝ているのかな、と思ったらどうやら蜜を吸っているようだ。

 

純粋に怖い。右側の蝶、よく見ると羽の部分に「712」と数字が書かれている。個体識別番号だろうか。

これはオオゴマダラという名前の蝶だそうで、ウィキペディア先生によると"ゆっくりと羽ばたきフワフワと滑空するような飛び方をする"(引用:オオゴマダラ - Wikipedia)とのこと。

そう、まさに蛾よりも蝶のほうに恐怖を抱く理由は、この飛び方にある。

蝶がなる木。

人が近づいても逃げないので、撮影はしやすいと思う。僕は勿論、望遠レンズで遠巻きに撮っている。なお、三脚や自撮り棒の使用およびフラッシュ撮影は禁止されている。

シャッタースピードは1/1250。飛んでいる蝶は、このくらいのシャッタースピードでないとブレてしまう。

 

(終わり)

【感想】クズの本懐、あるいは実存不安の文学

クズの本懐、見た。Amazonプライムビデオで6話まで視聴した。

僕は百合を愛する者なので、その美学に相反する本作を好きになることはないだろう。原作は漫画らしいが、読み終えたら壁に投げつけてしまうかもしれない。

しかし、しかしながら、本作は高く評価されるべきである。恐ろしい、とてつもない作品である。

『クズの本懐』のアニメを3話まで視聴した時点で、おおよそ本作に感じる怖さの何たるかに思い至ってしまった。それは強烈な実存不安である。

自分の存在理由。何のために生きているのか。生きる指針がある日突然に剥奪され、人は実存不安の奈落に突き落とされる。

本作では《恋愛》が生の指針として描かれ、しかしそれは物語序盤で喪失される。生きる意味を失った作中人物たちはその不安の穴を埋めるため《セックス》を代償行為として選択する。

ただ一回限りの人生は、あまりにも儚く、軽い。

本作は、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』を彷彿とさせる。ひとつの文学だ。作中全体を通して性行為の描写で埋め尽くされ、読者は官能を刺激されるかもしれないが、一方でどうしようもない絶望感に包まれる。悲しくなる。つらくなる。死にたくなる。生きたくなる。

それが、存在の耐えられない軽さであり、クズの本懐でもある。

僕たちが失恋あるいは悲恋のラブストーリーに没頭し、心を動かされてしまうのは、生きる理由を失った人間が、どのような未来を掴み取るかに興味を抱くからだ。おそらく答えは無い。答えが無いなりに、人はそれを見つけてゆく。

現代における漫画・アニメ作品を決して侮ってはいけない。こんなすごいアニメがあったことに僕は驚いてしまって、椅子からひっくり返ってしまった。

私的に評価しているアニメのひとつに『グラスリップ』がある。グラスリップでは《唐突な当たり前の孤独》という謎かけが提示される。

人は生まれたときから世界劇場に投げ込まれ、周囲との関係性に応じた自分の役割を身につけ、その演技に没頭している。アイデンティティとは、自分が演じたいと願う役割の仮面である。

ところが恋をしたとき、あるいは失恋したとき、その強烈な稲妻に打たれたかのような体験が、役者の仮面を打ち砕く。唐突な当たり前の孤独が訪れ、寂しさが実存不安を掻き立てる。

クズの本懐は、単なる恋愛云々の枠組みを超えて、本当に何と言うべきか僕を深く深く絶望させた。その絶望感に、心の底から感動している。

いつかここまでの次元の物語を、書いてみたいとは思いつつ、今の自分では到底届かない領域だ。すごいものを見てしまった。


Amazon:クズの本懐 1(完全生産限定版) [Blu-ray]

(了)

広告で食っている僕が「アドブロック入れて」としか言えなかった

 深夜の二時を回っていて、そろそろ布団に入り込もうかとしていた矢先、唐突にスマートフォンの着信音が鳴った。

 電話は友人からだった。彼とは長い付き合いだ。

 友人は少しパニックに陥っていて「何とかしてくれ。お前なら分かるだろう」と訴えかけてくる。話を聞いてみると、広告がどこまでも追いかけてくるので助けて欲しい、とのこと。

 その一言でおおよその事態が察せられた。僕は彼の病気について、よく知っていたからだ。

リターゲティング広告と強迫観念

 極めて個人的な情報となるのでフェイクを入れる。(冒頭の時点ですでにフィクションを混ぜていることをお許し頂きたい)

 強迫性障害、パニック障害、摂食障害といった病をイメージしてほしい。

 例えば「自分は痩せなければならない」という強迫観念を持つ人間がインターネットを使った場合、バナー広告はそれを後押しする形で働く。

 近年よく使われるのがリターゲティング広告だ。あるサイトを訪れたユーザーに対してクッキーを付与し、バナー広告を追いかけさせる。

「ダイエットサプリの販売サイトを訪問したら、他のサイトのバナー広告もダイエットサプリだらけになった」というのがリターゲティング広告の効果である。

 僕も就職活動中に、就活サイトのバナー広告がどこまでも付きまとってきて大いに弱った。漫画を読んでいても、動画を見ていても、絶えず「就活しろー!」とバナー広告が追いかけてくるのだ。これではノイローゼになってしまう。

 ましてやそれが、美容・健康あるいは金融方面となると、はるかに深刻度が増す。痩身の強迫観念を持つ人に対して、ダイエットサプリや健康食品のバナー広告がしつこく表示される。

 友人が助けを求めてきたのもまさにこれで、ダイエットや健康食品のバナー広告が常に表示されるような状態になってしまい、本当に参ってしまったらしい。

 何もこれは健康分野に限った問題ではない。

 例えばギャンブル依存を持つ人に対して、広告が何度もFX口座の開設を勧めてくるケースは考え得る。

 FXの広告は『副業』というキーワードで表示されるので、より悪質である。僕はFXも株式投資も経験者だが、あれは『副業』にはなり得ない。投機もしくは投資だ。

『誰でもできる簡単な副業♪』みたいなあおり文句でFXがおすすめされるのは、どこからどう考えてもおかしい。倫理にもとる広告が氾濫しており、これがリターゲティングされるとなると、かなり厄介だ。

 ともあれWeb広告の問題というのは、スマホでスワイプすると上から降ってきて誤クリックを誘発するバナーみたいな、物理的にうっとうしい!ものにとどまらない。

 ユーザーの行動履歴を解析して、ストーカーのようにしつこく付きまとってくるリターゲティング広告についても、見過ごせない深刻さがある。

Googleはリターゲティング広告の危険性を理解している

 AdWords(AdSense)をはじめ、Web広告を配信する立場にあるGoogleは、リターゲティング広告の危険性をもちろん理解している。

 だから一部の広告ジャンルでは、リターゲティングすることを禁じている。

 詳しくは(Personalized advertising - Advertising Policies Help)を見て頂ければ分かるが、具体的に

  • アルコール
  • ギャンブル
  • 処方薬、特定の病気の治療
  • 政治的思想

 等のセンシティブなカテゴリの広告はリターゲティングできない。

 また、ユーザーが望むのであれば「パーソナライズド広告を表示しないようにする(オプトアウトする) - Google」の設定によってリマーケティング広告・行動ターゲティング広告を無効化できる。

 さらに、特定の広告主からの広告配信をユーザー側からブロックすることもできる。(不要な広告を削除する - Google

 しかし上記のような対策法を電話越しに伝えようとしても「何言うてんのか意味わからんわっ」といった感じで話がまったく通じない。たしかに一般の人に対してリターゲティングだのパーソナライズド広告だのオプトアウトだの言っても意味不明だろうし、その設定方法も分かりづらく、ハードルが高い。

 それに上記の方法を取ったとしても「ダイエット」という巨大市場の広告をすべてブロックするのは不可能に近い。広告を配信するのはGoogleだけではない。

 

  僕は観念して「アドブロックの導入方法」をレクチャーすることにした。

 アドブロックが多くの支持を集める理由が、ようやく理解できた。

パーソナライズド広告はときに有害である

 広告はその性質上、個人の欲望や不安に訴えかける。ダイエット関連商品に限らず、化粧品、脱毛エステ、FX、保険、カードローン、引っ越し、転職、資格、婚活…etc さまざまな広告ジャンルがある。

 それらの情報がプラスに働くこともあれば、もちろんマイナスに働くこともある。

 会社に不安を持つ人が、毎日のように転職広告を見続けていたら「俺は本当に今のままでいいのだろうか……」と不安をさらに大きくさせてしまう。広告によって強迫観念を悪化させるだろうことは、想像に難くない。

 そしてネットを使う大多数の人たちは、パーソナライズド広告をオプトアウトする方法も知らないし、アドブロックの存在も知らない。

 このままネット広告のモラルハザードが続くのであれば、Web広告で稼いでいる自分も、いつか大きなしっぺ返しを受けることになるだろうと覚悟する。

 当ブログも、Google AdSenseを入れて運営している。しかし他のマネタイズ方法があるのであれば、そちらの方が本当は望ましいのだ。

「アドブロックがコンテンツを滅ぼす!」「アドブロックを入れている人はフリーライダーである!」と批判する人がいる。僕もポジショントークをするならば賛成したいところだが、今やそれも言えなくなってしまった。

 広告から自分の身を守るために、アドブロックを入れるのはやむを得ないことである。広告で食っている僕が「アドブロック入れて」としか言えなかった。

 こんな世界は、変えていかなければならない。

(了)

【書評】小説同人誌をつくろう!(弥生肇)は孤独な創作者こそが読みたい本

小説を書くのは寂しい。孤独な戦いである。

ひとりで黙々と創作を続けることに苦しくなってきた物書きに、ぜひとも勧めたいのが『小説同人誌をつくろう!(弥生 肇・著)』である。(※リンク先はAmazon)

僕はこれまで、孤高の創作者を気取っていたけれど、本書と出会うのがあと7年早ければと思わずにはいられない。もう、あれから7年の歳月が経つと思うと、本当に切ない。

自分語りが多く入るけれども、ひとつの書評として読んで頂きたい。

ツイッターの『創作クラスタ』の話

7年前、すなわち僕がツイッターをはじめたのは2010年2月のことだった。当時、僕は高校生で春からは大学に入ったのだが、学校には文芸サークルが存在しなかった。

ひとりぼっちで小説を書いていて、どうしても創作仲間がほしくなって、ツイッターで小説を書いている人を中心にフォローしていった。

やがてツイッターには『創作クラスタ』と呼ばれる、作家志望たちで交流をするとても緩い繋がり(グループ)のようなものが生まれた。その頃から、本書の筆者である弥生肇さんとは相互フォローの関係だった。

なので弥生さんが、オンライン創作マガジンやラノベ合同誌、同人誌即売会や電子書籍出版などでご活動されていたのは昔からよく知っていて、すごいなー、いいなー、と常々思っていた。

創作クラスタでのオフ会なんかも楽しそうで、正直あの頃の盛り上がりは僕にとっては羨ましくて、眩しかった。

そう。僕はツイッターの創作クラスタにいたにもかかわらず、自分から交流ということを一切やらなかった。殻に閉じこもっていた。

時折、ぼっちネタのツイートを投稿しては、フォロワーさんからファボ(※現在のいいね!のこと)を貰って承認欲求を満たす、なんとも寂しい人間だった。

僕がどうして、同人企画・同人イベントに参加できなかったかというと、一歩足を踏み出すだけの勇気がなかったからだ。

同人誌即売会でサークル出店する?

でもどうやって?

誘える仲間もいないし、同人誌をつくる方法もさっぱりわからない。

そもそも小説の同人誌を売る場があることさえ、知らなかった。

もしも7年前に書店で『小説同人誌をつくろう!』と出会えていたならば、きっと僕の大学生活は変わっていただろうにと悔やまれてならない。

繰り返すが、本書は孤独な創作者にこそ読んでもらいたい本である。

同人イベントで他の創作者さんと交流してみたいが、友だちもいないし、コミュニケーションも能力ないし、ひとりで出店参加できるかどうか不安だ。何だか怖い。――という人を本書は優しく後押ししてくれる。

ツイッターでの人間関係は儚い

かつてツイッターで繋がりのあった創作クラスタのフォロワーさんたちは、そのほとんどが今では姿を見せなくなってしまった。かくいう自分も、ペンネームを変えて別アカウントに失踪を遂げた人間のひとりであるが、ツイッターでの繋がりはかくも儚く消えゆくものだ。

オフ会とか同人イベントで、一度で良いから会っておけば良かったな……と今になって後悔している。

同人イベントで人と交流をするということ

僕は昨年に『文学フリマ大阪』に参加し、今年の1月に『文学フリマ京都』にサークル出店した。そして夏には『尼崎文学だらけ』というイベントで小説同人誌を出す予定だ。

参加レポートについては下の記事をご参照いただきたい。

つまり、7年の歳月を経てようやく自分の中での踏ん切りがついて、はじめて同人誌即売会で小説を出した。ひとりで。

結論を述べると、小説同人誌をつくるのはとても楽しかった。

やはり僕はコミュニケーションが不得手なので、そんなに多くの人とは話せなかったけれど、それでも人と人との繋がりを実感することができた。それはツイッターでの交流とはまた違った、新鮮な感覚だった。

どうして今までためらっていたのだろう。

どうしてもっと早くに体験しておかなかったのだろう。

と心の底から思うわけだが、それはやはり、これまで小説同人誌をつくるにあたっての情報が不足していた、入門書が存在しなかったことが大きい。

本書はおそらく商業出版されているなかでは唯一の(?)小説同人誌制作の入門書ということで、意義がある。かつて大学生だった頃の自分が、まさに読みたかった本だ。

本書内容の補足

本書のなかでは書かれていないことで、こういう情報も知っておくと役立つよー!という補足を少しだけしておきたい。

小説同人誌のフォントについて

本書p.23において「フォントを意識しよう」といったことが書かれているが、具体的なフォントについては記載されていない。

僕としては本文フォントは「游明朝」が綺麗なのでおすすめしたい。

また、『一太郎2017プレミアム』のおまけについてくる「筑紫明朝」も小説向け。

フォントサイズは「9.0P」が一般的だろうか。

このあたりはもう少し踏み込んで解説があっても良いなと感じるものの、ケースバイケースなためか、本書のなかでは具体例が提示されていない。

同人小説本のサイズについて

本書p.38では、同人小説本の希望サイズについてのアンケート結果が掲載されており、これ自体はデーターとして大変興味深い。結論として「文庫本サイズ」を希望する人が多いとのこと。

しかしながら、実際に文学フリマに行ってみると分かるのだが、主流は圧倒的に「B6サイズ」なのである。

これは何故かというと、文庫本サイズにすると1ページあたりの文字量が少なくなってしまう。その分、必要なページ数が増える。つまり製本コストが高くなってしまう。

なので長編小説を同人誌にする場合、どうしても(製本コストを下げたいので)B6サイズやA5サイズにするケースが多い。同人誌に二段組みが多いのもそのためであろう。

同人誌の印刷所について

本書p.42において、同人誌印刷所が4社ほど紹介されている。

このなかに出てこない印刷所で個人的に推したいのが『ちょこっと(ちょ古っ都)製本工房』さん。ここは圧倒的に安い。

文学フリマ大阪に行った際に同人誌を24冊購入したのだが、奥付を見ると「ちょ古っ都製本工房」で製本しているサークルが多かった。チェックしておいて損はないだろう。

ブース設営に必要なアイテムについて

本書p.76~では、同人誌即売会で出展参加するにあたって、準備したら良いアイテムについて、いろいろと紹介されている。

本書の内容にひとつだけ付け加えたいことがあるとするならば、「ブース設営に必要な道具のほとんどは100円ショップで手に入るよ!」ということ。

小銭入れや、本を立てかける台や、その他もろもろの多くは100円ショップで購入できる。まずはダイソーにでも足を運ぼう。

あとテーブルクロスを購入する際は、テーブルクロスで検索をかけても良いのを見つけるのが意外と難しくて、そんなときは「大判ふろしき」を探すと良いというのも小ネタ。

補足事項としてはこのくらいだろうか。

同人誌制作から電子書籍出版に至るまで、幅広く情報が網羅されており、入門書として十分な内容になっていると思う。(入門書のあとは、実践あるのみ!)

筆者のブログ記事(『小説同人誌をつくろう!』/初めての自著刊行です - ポジティブ物書きの雑記帳 )で書籍概要や目次詳細も掲載されている。買おうかどうか迷っている人はチェックしてみると良いかもしれない。

(了)


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