Webライターとして生きる

五条ダンのブログ。「楽しく書く」ための実践的方法論を研究する。

「あなた」と呼びかける文体はすべて「わたし」へと置き換えられる

アフィリエイトでもブログでも、コピーライティングでも良いのだけれど、読者に「あなた」と呼びかける技法が人気を集めている。読者の心を揺さぶりやすい、というのが主な理由だろうか。

たしかに、

  • あなたはアフィリエイトで不労所得をガポガポ稼ぎたいと思いませんか?
  • あなたはWebライティングの単価のあまりもの低さに絶望してはいませんか?
  • あなたは友達や恋人も作らず、孤独に過ごす毎日に満足していますか?

みたいな感じで、文の頭に「あなたは」をくっつけて呼びかけられると(お、おおぅ……もしかして俺のことを言っているのか)とめちゃくちゃ動揺してしまう。記事の下のほうに、なんか良い感じの情報商材のリンクが貼ってあったら、うっかりクリックしてしまうかもしれない。

このように、読者に対して「あなたは◯◯ではありませんか?」と疑問を投げかけて、あらかじめ用意された答えへと誘導するレトリックを設疑法(せつぎほう)という。コピーライティングの世界では基本的なテクニックで、意図して使っている人は多いと思う。

ただ正直に申し上げると、僕は「あなた」と読者に呼びかけるタイプの文体が大の不得意で、避けている。自分のブログではもちろん、Webライターとして仕事を受けるときでも、極力使わない。

というのは、このレトリック。効果が強すぎるのだ。相手の感情に、働きかけ過ぎる。街ナカでチェーンソーを振り回すようなもので、強すぎるレトリックは扱いが難しい。下手をすると自分が怪我をするし、相手を怪我させる場合もある。

僕はWebライターやアフィリエイターである以前に「小説書き」だ。小説文体に親しみがあるゆえに、文章中に二人称(あなた)を出すことにどうしても慣れない。だから設疑法を使う場面では、すべて「あなた」を「わたし」へと置き換えている。

じつはこれでも文章は成り立つし、場合によってはこちらの方が効果的なこともある。

「あなた」を「わたし」に置き換える具体例

冒頭に挙げた例文は次のように置き換えられる。

(Before)

あなたはアフィリエイトで不労所得をガポガポ稼ぎたいと思いませんか?

ならば、あなたは従来の考えを改めて次のようなノウハウを実践しなくてはなりませんね!

(After)

わたしはアフィリエイトで不労所得をガポガポ稼ぎたいと思った。

だから今までの考えを改めて、次のようなノウハウを実践してみた。

文章の効果はさておき「あなたは~しなさい!」と言うよりも「わたしは~したんだ」と言った方が押し付けがましさや上から目線感がないし、なにより主語が一人称であった方が書きやすい。

あなたはスーパーでレタスを買うとき、まさか「重いものの方が新鮮だ」と思い込んで選んでいませんか? じつは逆なんです!

と書くのか、それとも

わたしはスーパーでレタスを買うとき「重いものの方が新鮮だ」と思い込んで選んでいた。まさか逆だったとは……。

と書くのか。

どちらが効果的とは言えないし、優劣もつけられない。

けれど、もし読者に「あなた」と呼びかけることに苦手意識があるのであれば、ぜひ後者の方法もあることを知っておいて欲しい。良し悪しではなくて、純粋に書き手の「向き不向き」の話。自分にあった方を選ぶと良いと思う。

(追記)

ただし両者では、読者にもたらす感情のベクトルが180度異なる。

例えば「あなたはまだ東京で消耗してるの?」と言われたらなんだかムッとしてしまうだろう。コピーライティングでは読者の「怒り」「怖れ」「不安」の感情をうまい具合にポジティブな方向へと誘導していく。(だからこそ設疑法は難易度が高い)

対して「わたしはまだ東京で消耗してるのか…」と書いたらどうだろう。こちらは読者の「共感」「同情」「感情移入」の気持ちを引き起こし、物語体験に没入させて引っ張っていく。(共感させるのに失敗すれば、読者にとっては《他人事》の話となってしまう。その意味では、同様に難易度が高い)

どちらが正しい!というわけではないから、自分の得意な書き方を見つけよう。もちろん、二刀流も可。

(なお、上記の例えはプロブロガー、イケダハヤト氏のサイト『まだ東京で消耗してるの?』を参考にしたもの。『まだ東京で消耗してるの?』は設疑法であり、見た者に強い印象を与えることに成功している。かなり戦略的に作られたであろうサイトタイトル。追記ここまで)

繰り返すけれども、読者に「あなた」と呼びかける文体はすべて「わたし」へと置き換えられる。ただ、これだけを伝えたかった。

レトリックを扱ううえで気をつけていたいこと

最近は文章術についていかがわしいノウハウ書籍が増えてきて、

  • 人の心を操る文章術!
  • コピーライティングで洗脳する方法!
  • 読み手の心を動かす魔法の言葉!

といった感じの、思わず眉をしかめてしまうタイトルのものが出てきている。

もしも「言葉で人の心を意のままに操れる」と考えるならば、それは大変危うい思想で、文章術の闇に飲み込まれる恐れがある。そのような催眠技法が可能か不可能かと問われれば、可能ではある。やろうと思えば、相手の恋愛感情さえも操れる。

だが、危険なのだ。

いたずらに読者の心を動かすのは、本当に。

一歩間違えれば、自分が言葉の刃に絡め取られて、しっぺ返しを食らう。

レトリックを扱う者の基本姿勢として、決して忘れてはならないこと。

レトリックは、相手の思考や感情を都合良く操ったり、催眠をかけるためのものではない。

自分の伝えたいことを、読者により良く伝えるための技法なのだ。

これだけは、どうか――。忘れないで欲しい。

(終わり)

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