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【感想】クズの本懐、あるいは実存不安の文学

クズの本懐、見た。Amazonプライムビデオで6話まで視聴した。

僕は百合を愛する者なので、その美学に相反する本作を好きになることはないだろう。原作は漫画らしいが、読み終えたら壁に投げつけてしまうかもしれない。

しかし、しかしながら、本作は高く評価されるべきである。恐ろしい、とてつもない作品である。

『クズの本懐』のアニメを3話まで視聴した時点で、おおよそ本作に感じる怖さの何たるかに思い至ってしまった。それは強烈な実存不安である。

自分の存在理由。何のために生きているのか。生きる指針がある日突然に剥奪され、人は実存不安の奈落に突き落とされる。

本作では《恋愛》が生の指針として描かれ、しかしそれは物語序盤で喪失される。生きる意味を失った作中人物たちはその不安の穴を埋めるため《セックス》を代償行為として選択する。

ただ一回限りの人生は、あまりにも儚く、軽い。

本作は、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』を彷彿とさせる。ひとつの文学だ。作中全体を通して性行為の描写で埋め尽くされ、読者は官能を刺激されるかもしれないが、一方でどうしようもない絶望感に包まれる。悲しくなる。つらくなる。死にたくなる。生きたくなる。

それが、存在の耐えられない軽さであり、クズの本懐でもある。

僕たちが失恋あるいは悲恋のラブストーリーに没頭し、心を動かされてしまうのは、生きる理由を失った人間が、どのような未来を掴み取るかに興味を抱くからだ。おそらく答えは無い。答えが無いなりに、人はそれを見つけてゆく。

現代における漫画・アニメ作品を決して侮ってはいけない。こんなすごいアニメがあったことに僕は驚いてしまって、椅子からひっくり返ってしまった。

私的に評価しているアニメのひとつに『グラスリップ』がある。グラスリップでは《唐突な当たり前の孤独》という謎かけが提示される。

人は生まれたときから世界劇場に投げ込まれ、周囲との関係性に応じた自分の役割を身につけ、その演技に没頭している。アイデンティティとは、自分が演じたいと願う役割の仮面である。

ところが恋をしたとき、あるいは失恋したとき、その強烈な稲妻に打たれたかのような体験が、役者の仮面を打ち砕く。唐突な当たり前の孤独が訪れ、寂しさが実存不安を掻き立てる。

クズの本懐は、単なる恋愛云々の枠組みを超えて、本当に何と言うべきか僕を深く深く絶望させた。その絶望感に、心の底から感動している。

いつかここまでの次元の物語を、書いてみたいとは思いつつ、今の自分では到底届かない領域だ。すごいものを見てしまった。


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(了)


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