「蝶が怖い」僕がわざわざ昆虫館で蝶を見てきた話
ゴキブリやムカデやナメクジよりも、蝶の方が嫌いだ。嫌い、というよりも怖い。恐怖を感じる。世の中には蝶恐怖症なるものがあるらしく、僕もそのひとりなのかもしれない。
「蝶が怖い」とはっきり自覚したのは、自分が4歳のときだった。当時住んでいた古いアパートの階段の壁に、一匹の大きな蛾が張り付いているのを見たのである。
蛾は、翅の大きさが2メートルはあるように感じられた。モスラかよ!と突っ込みを入れたくなる。でも、子供の目にはそれくらいに巨大な蛾の姿が映った。
蛾は、風に翅を揺らめかせる。枯れた葉っぱのような色をしていた。僕と手を繋いで、隣にいた母が、蛾を見上げる。そして一言、「死んでる」と呟いた。
耐えがたい恐怖のようなものが、心のなかに宿った。
子どもの頃は、蝶に似ている葉っぱを見るのも怖かった。昆虫図鑑の蝶の写真もダメだった。
そのくせ、イモムシは大好きで、小学校では嬉々としてイモムシの飼育をしていた。やがて、イモムシが蝶に変身するという衝撃の事実を知り、絶望を味わうこととなる。
高校生になる頃には、さすがに葉っぱや図鑑を見ても動じなくなった。しかし蝶は怖いまま。ちょうど横断歩道を渡っているときに、前方から蝶が飛んできた。頭が真っ白になり身体がフリーズしてしまい、危うく車に轢かれかけたこともあった。
遠足で山に行ったときには、同級生がクマバチから逃げ回るなか、僕は反対方向にモンシロチョウから逃げ回っていた。
興味本位で『チョウは零下196度でも生きられる』(太田次郎・著/PHP文庫)を読んだらますます怖くなったし、蝶を冷凍庫に入れても死なないエピソードは背筋をゾッとさせる。
標本作りのときに、蝶の胸を指でつまんで圧殺する話も耐えられない。
国語の教科書には、ヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』が載っていて、主人公が蝶の標本を指で潰してバラバラにするシーンが出てくる。あれはトラウマものだ。
前置きが長くなった。ともあれ、これだけ言葉を尽くしてもまだ全然足りないくらいに、僕は蝶がこわい。
蝶を見にわざわざ昆虫館に行った
仕事の関係で、大阪府箕面市に行く機会があった。まったく偶然だが、数日前に箕面公園の昆虫館がいいよ!というブログ記事(昆虫好きの楽園! 大阪・箕面公園の「昆虫館」に行ってきた! - 接客業はつらいよ! あけすけビッチかんどー日記!)を目にしていた。
箕面公園昆虫館には「放蝶園」という施設があり、ビニールハウスのなかに200匹以上の蝶が放し飼いにされている。
僕も大人になり、昔よりかは蝶が大丈夫になってきた。だから怖い物見たさというか、蝶恐怖症克服のために、ええいままよ!と箕面公園昆虫館を訪れることにした。
箕面公園昆虫館は、30分もあればすべて見て回れるくらいの施設だ。
入館料は大人270円、中学生以下は無料と手頃である。訪れたのは7月下旬の夏休みシーズンで、子どもがたくさん来ていた。
中に入るとカブトムシの生体展示が目に入った。
カブトムシはかわいい。虫そのものは好きで、小学生のときはカブトムシを育てていた。写真は日本のカブトムシだが、コーカサスオオカブトやヘラクレスオオカブトも展示されていた。夏の特別展示とのこと。
残念ながら写真はあまり撮れなかった。というのは、デジタル一眼レフのニコンD5000を持ってきたのだが、あろうことか望遠レンズしか用意してこなかったのだ。展示を撮影しようにも距離が近すぎて焦点が合わず、ピンぼけしてしまう。かといって離れて撮ると他の人の邪魔になるし、これはミスったなあと思った。
他に、落ち葉に擬態したカマキリや、巨大なゴキブリの展示もあった。
写真はマダガスカルのフルーツゴキブリ。大人気のペットなのだとか。なるほどたしかに愛嬌がある。
さて、肝心の放蝶園に足を踏み入れる。自動ドアをくぐると、そこはもうホラーハウスだ。天井を見ると、大量の蝶がわしゃわしゃあーと飛んでいて、あ、これはもう死ぬわと思った。
至る所に蝶が飛んでおり、逃げ場もない。そこはもうオバケ屋敷よりも遙かに恐ろしい場所で、僕はカチコチに固まってしまった。
放蝶園の奥の方に、蝶のなる木(?)みたいのがあった。木の実のような感じで、蝶がぶら下がっている。そこに幼児とお父さんの家族連れが来ていて、子どもが蝶に触りたがっていた。
お父さんは「よしよし」と言って子どもを抱きかかえ、木で羽休めする蝶に、手を触れさせようとする。子どもはいっぱいに腕を伸ばし、蝶を掴もうとした。蝶は人に慣れきっているのか、まったく逃げるそぶりがない。
放蝶園は、蝶に触るのは禁止である。これは注意しなければいけないなと思って、声をかけようとする。だが、いかんせん周りに蝶がうじゃうじゃといて、身動きが取れない。というよりも、目を開けているだけでも精一杯なのだ。
しかしちょうど良いタイミングで館内放送が入った。「放蝶園の蝶を追いかけたり捕まえたりするのはやめてください」といった趣旨のアナウンスが流れ、その親子は蝶をあきらめた。
僕はそれから片目を固く閉じて、カメラのファインダーに目をくっつけ、望遠レンズで離れた場所から蝶を何枚か撮った。放蝶園には花の密のお皿のようなものがいくつか設置されており、そこで蝶が蜜を吸う様子を観察できる。
ともあれ冷や汗をだらだらと流しながら、何だかんだ言って放蝶園で充実のひととき(?)を過ごし、僕は昆虫館を後にした。
昆虫の魅力が伝わってくる素晴らしい施設だった。ただし、蝶恐怖症の人は、放蝶園はやめた方が良いと思う。ショック療法で克服できるかなと期待したが、無理だったので……。
(※放蝶園の写真は要閲覧注意のため、記事の一番後ろにまとめて掲載しています。記事最下部で警告文を入れますので、苦手な方はそこでブラウザバックしてください)
箕面観光ともみじの天ぷら
昆虫館から30分ほど歩くと、日本の滝百選のひとつである「箕面滝」を見ることができる。滝のそばは非常に涼しく、設置された温度計を見ると真夏にもかかわらず気温は25℃であった。
川ではたくさんの子どもが水遊びをしていた。売店では、鮎の塩焼きや、フライドポテトやからあげ、きゅうり、それから箕面名物である「もみじの天ぷら」が売られていた。
もみじの天ぷらはイメージに反して甘いお菓子で、その味はかりんとうにも似ている。独特なカラッとした食感があり、他ではまず食べることのできない珍しい菓子なので、箕面にお越しの際はお土産にひとつどうぞ。
最後に、昆虫館のすぐ近くにある箕面山瀧安寺(弁財天)にお参りをして、帰った。
蝶が怖いのはおかしいことではない
以上、蝶が怖い話と、箕面公園昆虫館での体験、それから簡単な箕面観光レポを紹介した。箕面は僕も初めて訪れたのだけれど、なかなか日帰りでも楽しめた場所なので、お近くの方はぜひ行ってみてほしい。
さておき、ゴキブリやナメクジを怖がる人がいるように、蝶が怖いのは決しておかしいことではない。
友人も「俺はテントウムシが怖くて怖くて仕方がないんだ」と言っていた。人によって怖いものはさまざまであり、無理に克服する必要はないんだなと気づかされる。
恐怖心は恐怖心として受け入れつつ、小さな生命の尊さに心からの敬意を払いつつ、平穏に生きていきたい。
(了)
蛇足:箕面公園昆虫館「放蝶園」の写真
下記に、放蝶園で撮った写真を掲載します。
蝶の写真が苦手な方はここでブラウザバックしてください。
わざわざ写真掲載しなくても良いかなと思ったものの、折角恐怖心を乗り越えて撮影したものなので、載せておきたい。
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これ、蝶が花のベッドで寝ているのかな、と思ったらどうやら蜜を吸っているようだ。
純粋に怖い。右側の蝶、よく見ると羽の部分に「712」と数字が書かれている。個体識別番号だろうか。
これはオオゴマダラという名前の蝶だそうで、ウィキペディア先生によると"ゆっくりと羽ばたきフワフワと滑空するような飛び方をする"(引用:オオゴマダラ - Wikipedia)とのこと。
そう、まさに蛾よりも蝶のほうに恐怖を抱く理由は、この飛び方にある。
蝶がなる木。
人が近づいても逃げないので、撮影はしやすいと思う。僕は勿論、望遠レンズで遠巻きに撮っている。なお、三脚や自撮り棒の使用およびフラッシュ撮影は禁止されている。
シャッタースピードは1/1250。飛んでいる蝶は、このくらいのシャッタースピードでないとブレてしまう。
(終わり)