Webライターとして生きる

五条ダンのブログ。「楽しく書く」ための実践的方法論を研究する。

仮想通貨トレードで投入資金をすべて失ったボクが伝えたいこと

(なんてことだ。仮想通貨トレードで資金をすべて溶かしてしまったぞ……)

 乱高下するビットコイン Air FXの板を眺めながら、ボクは椅子に腰を沈める。セミの抜け殻のように放心していた。ショーターを焼き払った火柱は一瞬で消え、気まぐれな悪魔の笑みを浮かべて今度はロンガーを薙ぎ払いにいった。

 ボクの頭にはさまざまな後悔が過ぎった。

 ネムをナンピンせずにすぐ手放してさえいれば。ビットコインを損切りせず持ち続けていれば。欲をかかずにあのときビットコインキャッシュを利確しておけば。チャットの怪情報に騙されなければ。損を取り返そうとAir FXに手を出したりしなければ――。

 すべてが、後の祭りだった。

 今朝は人身事故が多かったと聞く。株であれ、FXであれ、仮想通貨であれ、ギャンブルと呼ばれるものはすべてそうだけれども、そこでは時として命のやり取りがなされる。自己責任とはいえ、電子データーの数値の上下で人の運命、生き死にが決まるのは、なんともSFチックでディストピアな話かもしれない。

 かのイケダハヤト氏は「まだ仮想通貨持ってないの?」というブログを運営し、あろうことかビットコインFXをオススメするという、恐ろしい事業をやり始めた。ビットコインのイケイケ相場も、そろそろ終わりだろうか。

 仮想通貨トレードを絶対にやめろとまでは言わないが、投入資金を全部失ったボクからは、下記の三点を注意しておきたい。

 1.投機は「失っても良い額」以上は賭けない

 今こうしてボクが、ブログ記事を書くくらいの精神的余力を残しているのは、ひとえに投資金額そのものが少なかったからである。

 大学生のとき2013年~2015年のアベノミクス相場で、ボクは株式投資で多くの資産を失ってしまった苦い経験がある。そのとき、自分が――いや人間の思考というものが――いかに気まぐれで、コントロールが難しく、思い通りにならない代物であるかを思い知った。

 つまり、自分がバカであることを知った。

 当時、卒業論文で行動経済学について研究していた。しかし株で大負けして分かったのは、結局のところ、自分がどれだけ投資家心理やプロスペクト理論に詳しく、冷静な判断に基づいて取引しているつもりであっても、決して自己の認知バイアスから逃れることはできないという残酷な事実であった。

 仮想通貨投資を始めるとき、頭の中の99%は「よっしゃ! これで俺も億り人になってやるぜ!!」という謎の自信に満ちていたが、僅かに残った1%の理性が「全負けの可能性は十分にあり得るな……」と予測をしていた。

 だから万が一、賭けた資金をすべて失ったとしても、精神的に納得はできる金額以上は投入しなかった。実際に「万が一」が起こり、判断は正解だった。

 もし欲をかいて生活資金を使っていたならば、ボクは今ここにいなかったかもしれない。

 ギャンブルは最初の賭け金を決める段階で勝負が決していると言っても過言ではなく、すなわち「負けたら人生が破滅する!」みたいなギャンブルは、実際にはお金ではなく自分の魂を差し出す行為に等しい。

 もし含み損で精神的なダメージを受けているのであれば、それは最初から賭けてはいけないお金だったのだ。

 自分の意思によって100%確実にコントロールできるのは「賭け金をいくらにするか」だけである。とにかくここで間違えてはいけない。

 そのことが痛いほどによくわかった。

2.短期トレードによって失われる最も大きな資産は「時間」である

 賭け金が少なかったので、金銭的ダメージは致命傷を避けられた。しかし考慮していなかったのが「時間」というかけがえのない資産である。

 ボクはこのところ仮想通貨中毒になっていて、睡眠時間を削ってトレードをしたり、相場が気になって仕事が手につかなかったり、暴落の不安で眠れなかったり、むしろそちらの方が大ダメージだった。

 寝不足と緊張がたたり体調を崩し、風邪を引いてしまった。

 株取引をやっていたときは今の50倍以上の資金を動かしていた。だから自分がこれほどまでに消耗するとは思わなかった。

 仮想通貨のボラティリティは株とは比較にならないほど大きく、ジェットコースター並みのスリルがある。

 具体的に言えば、ビットコインキャッシュという仮想通貨はたった1日で価格が2倍に吊り上がり、その日のうちに値が半分に暴落した。ボクはその瞬間を目の当たりにしたが、この世の終わりを見たような気がした。

 仮想通貨取引所のチャットでは、いろんな人が買い煽りや売り煽りのポジショントーク、それから株だったら絶対に逮捕されるレベルの「風説の流布」なんかを好き放題に投稿している。

 仮想通貨は取引所によって値段が違うので、チャットの怪情報なんかでも釣られて買い板が動かされてしまう。チャットによる情報戦と板の読み合いで価格が変動するそれは、リアル人狼ゲームであり、ポーカーであり、ババ抜きであり、チキンレースでもあるのだが、脳内からドーパミンがドバドバと分泌されるのを実感することができる。

 もちろんゲームと割り切ってしまえば面白いのだけれど、なんにせよネトゲ中毒と同等か、それ以上の中毒性が仮想通貨トレードにはある。

 中毒に陥った結果、失われてしまうのは貴重な時間である。「トレードする暇があったら、働いてJPYマイニングした方が儲かる!」のはこの界隈ではよく知られた話だ。

3.取引所のサーバーを信じてはいけない

 株やFXと、仮想通貨トレードとで大きく異なるのは「取引所」を信頼できない点にある。

 相場加熱時には値が吹っ飛んでロンガーもショーターも焼き払われることがあるし、サーバーが落ちて損切りできないことだってある。

 注文ボタンを押しても「現在は一時的に取引ができません」と表示され、注文が通らない。だから負けポジションを抱えたトレーダーは必死にF5キーや注文ボタンを連打して、なんとか逃げ切ろうとする。

 ボクも昨日のあのときにボタンを押して注文が通ってさえいたのなら、30%の損失だけで抑えられていたというのに、まったく悔しい話である。

「相場加熱時に注文が通らない」は、ここ数日はわりと日常茶飯事で起きている。日本の複数の取引所でサーバーエラーがあり、韓国の取引所のサーバーも落ちたと聞く。

 過去のこの記事ではZaifを取り上げたが、Zaifに限った話ではなく、仮想通貨取引所のサーバーを信じてはいけない。

 多分、SBIが仮想通貨取引所を開いたら、少なくないトレーダーがそちらに移動するのではないかと思う。仮想通貨取引所はまだまだ発展途上の段階にある。

終わりに

 ひとつだけアドバイスを。

 ギャンブルに限らないが「損した分を取り返さなきゃ!」という思考になると大抵は負けてしまう。投資は「損したことを忘れて眠る」のが良い戦略で、投機は「損をする前提でトレードする」のが大切である。

 おそらく今後「仮想通貨で○○万円儲かりました!」みたいな記事が、はてなブックマークにも上がってくるだろうと思う。そのときに頭の片隅にでも、この記事のことを思い出してくれたなら幸いである。

 なお、当記事中の文章のいくつかは、ツイッターで呟いたツイートをそのまま抜粋している。

 当記事の筆者に興味のある方はボク(五条ダン (@5jDan) | Twitter)のツイッターアカウントをフォローしていただけたなら嬉しく思う。

 ただ仮想通貨トレーダーは引退、もとい退場させられたので、今後トレードに関するツイートをすることはないです。もしそれっぽいツイートをしていたらたぶん闇堕ちしてしまっているので、どうか全力で止めてほしい。

(了)


Copyright (C) 2016-2019 五条ダン All Rights Reserved.