Webライターとして生きる

五条ダンのブログ。「楽しく書く」ための実践的方法論を研究する。

Webライターに誇りはあるか、アフィリエイターに良心はあるか

フリーランスのWebライターとなって3年目となる。以前は企業の内勤ライターだった。アフィリエイト事業を中核とする会社で、僕は美容・健康系の記事制作を受け持っていた。

働きやすい環境だった。4人の社員さんで会社を回していて、みんな仲間意識が強い。僕も仲間に(非正規雇用だったが)加えてもらえ、若かったので「五条くん、五条くん」と呼ばれ可愛がられた。

先輩はよくコーヒーを奢ってくれた。社長さんは、孫娘の可愛さについて、ことあるごとに自慢していた。僕にはHTMLやPHPの手ほどきをしてくれた。みんな優しく、いつも和気あいあいとした空気が流れる。「これがアットホームな職場ってやつか……」と嬉しかった。ここで一生働こうと思っていた――。

無い内定のまま大学を卒業した僕にとって、あれほどに優しく快適な職場はなかった。対人恐怖があり、学生時代に就活で100社全滅。そんな落ちこぼれの自分をライターとして拾ってくれるところなど、もうどれだけ探しても見つからない。

だが、辞めた。

良心の呵責に耐えられなくなったからだ。

上のブログを読んで、いたく共感した。「ブラックな記事を書くことに葛藤する」という境遇が僕とそっくりだったからだ。

伊藤園の「水素水商法」が叩かれている。しかしあんなのまだ可愛いもので、僕とそこの社員さんがやっていたのは「詐欺だ」と罵られても文句は言えない正真正銘のブラックアフィリエイトだった。

僕が担当した美容・健康系の記事は特にひどかった。薬事法なんて概念はあったものではない。「動脈硬化を予防できます」「メタボ解消できます」「若返ります」「寿命が延びます」「背が伸びます」「病気が治ります」「記憶力が上がります」適当な科学的根拠をでっち上げた甘い文言でサプリメントを売りつける。

嘘の口コミもたくさん書いた。「3週間で体重が10キロ減りました」「不眠症が治りました」「健康診断で良い結果が出ました」「恋人ができました」「飲んでみたらすっきりとした味わいで美味しかったです」「身長が5センチ伸びました」

多い日は1日に2万文字ほど書いた。書けば書くほどに、感覚が麻痺していく。心を失った人形のように、僕はひたすら嘘の言葉を紡ぎ続けた。自分は書くロボットになっていればいいんだと思った。

ちなみに会社は、SEOの方もブラックハットな手法を使っていた。

id:teihen-writerさんも(私が知っている、参加していた「はてなブックマーク・スパム互助会」)で書いていた「IPアドレスを変えられる機械」とやらを使って、Yahoo!などのフリーメールを大量取得する。そのメアドではてなブログ・ライブドアブログ・FC2ブログ・JUGEMブログなどのアカウントを大量開設し、ブログを量産。(1,000や2,000は軽く超えている。10,000あるかもしれない)

ブログに専用ツールを用いて、マルコフ連鎖でワードサラダ記事を生成。自動で量産した記事から、サテライトサイトにリンクを送る。そしてサテライトサイトからメインサイトにまたリンクを貼り、被リンク偽装で検索エンジンを騙して順位を上げる。

ワードサラダスパムのイメージがつかない方は、下記の検索結果一覧を見てほしい。

はてなブログも、ワードサラダスパムにかなり汚染されている。自動生成ツールではなく、クラウドソーシングで1文字0.1円くらいで発注をかけるケースもある。いずれにせよ、それは人間のために書かれた記事ではないし、人間のやる仕事ではない。

良心と誇り

会社は「一身上の都合」で辞めた。辞めてからのアテはなかったし、バイトの面接にさえ落ちる僕はその後の生活に苦しんだ。

台風の夜、絶え間ない銃声のようにトタンの屋根が鳴り響き、玄関の木製ドアが風で吹っ飛んだ(誇張法ではなく本当に。死ぬかと思った)営業活動でやっと獲得したクライアントさんは気の荒い人で理不尽な要求も多く、対人関係でも悩まされた。

人を騙す嘘を吐き続けた自分への当然の報いであるし、天罰であった。いや、この程度で罪を償えるとは思っていない。地獄に落とされて、閻魔大王に会ったら真っ先に舌を抜かれるのはこの僕だ。

あまりにも多くの嘘をつき過ぎた。嘘を書いて人を幸せにできるのは、小説の世界だけである。中学生の頃から、文章を書くのが好きだった。将来は小説家になりたかった。

それがどうして、好きなものを貶めるような、書くことを侮辱するような、自分自身を否定するような、救いようのない悪事に身を染めてしまったのだろう。今さら後悔をしたところで、嘘を帳消しにできるわけではなかった。

Webライターとして独立してからの道も険しく、うまく行かないことの方が圧倒的に多かった。精神的にも憔悴し、死を考えていた時期もあった。

ライターだけでは食っていけず(運良く面接で通った)データ入力のアルバイトもした。数字をひたすら入力するだけの単純作業だったが、嘘をつかなくて良いことに心の底から安堵した。それは少なくとも誰かの役に立つ仕事だった。人を騙さなくていい仕事だった。

紆余曲折あり、今ではなんとかWebライターを本業にして生計を立てている。大変ありがたいことに、人の役に立てると思える仕事もいただけるようになった。

良心のない文章は、それがどれほど優れたレトリックで書かれていたとしても、死んでいるに等しい。良心なき文章は、死んでいる。僕もゾンビのような記事を大量に生み出してきた当事者である。死んだのは、ライターとしての誇りだ。

つい先日、誰もが知る有名企業のオウンドメディア担当者の方と、会って話をする機会があった。だいぶ打ち解けてから、彼はぽつりと零した。

「この業界って、良心が痛みますよね」

僕は顔だけ笑って硬直したまま、返す言葉がなかった。

彼の感じる痛みが、苦しいほどに理解できた。

闇は深い――。

戦わなければならない。まだまだ、これからも。

 

(了)

 

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