Webライターとして生きる

五条ダンのブログ。「楽しく書く」ための実践的方法論を研究する。

ボクはまだ仮想通貨で消耗していたという話

正常な判断をすることは難しい。それはもちろん、判断をするときは自分のことを正常だと信じて疑わないからである。

事件は起こった。

12月のある日、ボクはまだ仮想通貨トレードで大儲けする夢を捨てられず、取引所のチャートに張り付いていた。取引板は赤と緑色にちかちかと点滅し、その横ではチャットの文章がめまぐるしく流れている。

そこでふとした怪情報が目の前をよぎった。

「おい、海外取引所では仮想通貨のXEMが1ドルで売れているぞ」

目を疑った。1ドルといえば当時のXEMレートの2倍の価格だ。実際にその海外取引所へアクセスしてみると、たしかに異常な高価格レートで取引されている。

つまり、日本の取引所でXEMを買って、海外の取引所に送金して売却。ビットコインに交換してから日本の取引所に戻し、今度はビットコイン建てでXEMを購入し、海外取引所に送る。そしてまた売却してビットコインに替える。

なんとこの裁定取引(アービトラージ)を繰り返せば、無限に儲かる理屈だ!!!

ヒーハー、目の前にお金が落っこちているようなもんだぜ!! 楽勝じゃないか!!

と思ったボクはさっそく取引所口座に残っていた日本円でXEMを買い付け、すぐさま海外取引所のウォレットに送付した。

結果、送金ロストした。

海外取引所のXEMウォレットは『Maintenance』にステータスが切り替えられ、その後何週間待っても送ったXEMがウォレットに反映されることはなかった。サポートにメールをしてもまったく音沙汰がない。よくよく見ればその取引所は、運営者情報の一切が隠されているではないか。

英語で検索をかけてみれば、被害者と思われる他の投資家の嘆きの投稿で溢れかえっていた。

改ざん不可能でインターネット上に残り続けるXEMのブロックチェーン(台帳)には、ボクがその取引所の口座にXEMを送金した取引履歴のたしかな証拠が残っている。だがその優れたフィンテック技術も、悪意ある詐欺取引所を前にしてはまったくの無力だった。

またしてもボクは仮想通貨で愚かな失敗をしてしまったのだった。

(※過去記事→  想通貨トレードで投入資金をすべて失ったボクが伝えたいこと

その後XEMは価格が2倍に高騰し、結局は(国内取引所でも)1ドル付近で取引されるようになった。つまり余計なことをせずにそのままホールドしていれば、資金は2倍になったのだ。

悔しくて、絶対にやめると誓っていた仮想通貨トレードに再び手を伸ばしてしまう。夜間も、休日も、仮想通貨相場に休みはない。しかも現物取引であっても、レバレッジ25倍のFX並みに値動きをする恐ろしいジェットコースターである。

資金が30%近く増えたり減ったりする日常茶飯事に、さすがに感覚がおかしくなってしまう。やっていて(あっ……これは典型的なギャンブル依存症だな……)と自覚する。だが自覚があっても取引をやめられないのが依存症の怖いところである。

どのようなギャンブルであっても、勝ち逃げできずにトレードを繰り返した果てに行き着くのは「破産」である。

ついには夢のなかでさえボクは仮想通貨トレードをするようになって、夢の世界では赤色や緑色の数字があたり一面を駆け回っていた。高いビルの電光掲示板に『ビットコイン価格5000万円を突破!!』と表示され、ボクは目をまん丸にして(ついに億り人になるときが来たのか……)と興奮と共に目を覚ます。

飛び起きてスマホで確認してみると、保有通貨は前日比マイナス20%に下落していて、夢から一気に現実に戻った。不毛な生活である。

ミヒャエル・エンデの『モモ』をもう一度読み返さなければと思った。人々は未来のお金を得たいがために《今》というかけがえのない時間を――、命を失ってしまう。

投資は、時間のマジックを使ってお金を働かせる。しかしギャンブルでは我々がお金に弄ばれ、気がつけば時間を盗まれている。本末転倒ここに極まる。

さておき、仮想通貨そのものにお金を投じるよりも、ブロックチェーン技術の勉強をしてアプリやWebサービスの個人開発に取り組んだ方が、はるかに得られるものが多い。

JavaScriptで開発ができる仮想通貨LISKのコミュニティは技術方面でも盛り上がっているし、APIマニュアルが公開されている仮想通貨XEMでもさまざまなWebサービス・アプリを作ろうと試みる学習者が増えてきた。

XEMの投資家たちが「XEMの価格に一喜一憂することはもうやめて、どのようにその技術を使うのか、自分なりにできることからやっていこうよ」と呼びかけているのは、とても良い兆しだと感じる。

たとえバブルが弾けて仮想通貨の価値が今よりずっと低いものになったとしても、そこで培った知識と技術は、決して無駄にはならない。一生の財産と言ったら大げさだろうか、しかし貴重な経験とはなるだろう。

自分の魂を差し出すようなギャンブルは、やめなくてはいけない。

『賭ケグルイ』は漫画の世界だけに留めておきたい。

サンプル数が自分ひとりなので何とも言えないが、ボクのように仮想通貨ギャンブル依存症に陥ってしまう人は今後増えていくだろう。恐ろしいことだ。

言われなくても分かっている。

ビットコインの価格を1000万円にするよりも、自分自身の能力を1mmでも2mmでも高めることの方が大切だ。自己投資こそが、最高のパフォーマンスを誇る投資なのだから――。

(了)


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